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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)2529号 判決

本籍

大阪市浪速区櫻川二丁目一〇九六番地

住居

同市南区谷町九丁目一番地

菓子加工業

木戸脇榮太郎

明治四一年二月一八日生

右の者に対する物価統制令違反被告事件について、昭和二四年七月九日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人黒田喜藏の上告趣意第一点について。

被告人の製造した本件飴菓子の製産原価が百匁に付き一六五円であるとの事実は、もとより所論のごとく公知であるということはできないのみならず、かりに被告人の製造する飴の原価は百匁一六五円を要するものとしても、それだからといつて、所論のように昭和二二年九月二八日物価庁告示第八〇四号による飴菓子百匁につき製産者販売価格金三五円五〇銭はすべての飴菓子に対し製産原価を下廻る価格であつて右指定価格を以てしては到底飴菓子製造販売業は採算上成り立たないとの結論に到達するものではない。其他右指定価格によつては、飴菓子の製造販売業は絶対に成立たないとの事実は、本件においてこれを認むべき証拠はない。(上告人も原審において、この点について何等主張立証するところはない)従つて右の事実を前提とする弁護人の前示指定告示の違憲論は既にその前提において失当であるといわなければならない。

同第二点について。

原判決挙示の証拠(殊に買受人一三名から各提出した買受顛末書)によれば、原判決添付別表記載のとおり、飴菓子の売買が行われた事実を認定することができる。(右の事実は原審公判において被告人の自認するところであつて、右売買価額中に本論旨において主張するような控除すべき金額を包含していることは原審において被告人は少しも主張していない)所論は、要するに、原審の自由裁量に属する証拠の判断、事実の認定を非難するに帰するものであつて採用の限りでない。

同第三点について。

本件において第一審判決は被告人に対し懲役四月及罰金五万円に処する。但懲役刑については一年間その執行を猶予する旨を言渡したに対し、原審は、罰金十五万円に処する旨の判決を言渡したのであつて、懲役刑が罰金刑より重い刑であることは刑法一〇条の明定するところであるから、右原審の刑を以て第一審の刑よりも重いとすることはできない。従つて論旨は理由がない。

同第四点について。

原判決の刑を以て憲法第三六条の「残虐な刑罰」にあたるものとすることのできないことは、当裁判所の判例の示すところに徴して明らかである。(昭和二二年(れ)三二三号同二三年六月二三日大法廷判決参照)所論は、畢竟原審の量刑の不当を主張するものであつて、適法な上告の理由とならない。

よつて、刑訴施行法二条、旧刑訴四四六条に従い、主文のとおり判決する。

右は、全裁判官一致の意見である。

検察官 田中巳代治関与

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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